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宮崎地方裁判所 昭和53年(わ)250号 判決 1979年4月13日

本籍

宮崎県都城市吉之元町四八一二番地

住居

同県延岡市春日町三丁目五番地二号

産婦人科医

大重光雄

大正一五年五月一五日生

右被告人に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月および罰金六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、延岡市春日町三丁目五番地二号において産婦人科医院を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、自己の妻大重栄子と共謀のうえ、公表計理上入院料、人工中絶料、妊婦検診料等の一部及びミルク、綿花等の売上の全部を除外して所得金額の一部を秘匿したうえ、

第一、昭和五〇年分の実際の所得金額は六〇、二三五、六三八円で、これに対する所得税額は二八、八一五、五〇〇円であるのにかかわらず、昭和五一年三月一五日、同市東本小路一一二の一所在の延岡税務署において、同税務署長に対し、所得金額は三八、七九八、六四〇円でこれに対する所得税額は一五、〇三六、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の所得税一三、七七九、二〇〇円を免れ

第二、昭和五一年分の実際の所得金額は六〇、七五二、六五九円で、これに対する所得税額は二九、三二四、五〇〇円であるのにかかわらず、昭和五二年三月一四日、前記延岡税務署において、同税務署長に対し、所得金額は四〇、九五八、九三二円で、これに対する所得税額は一六、四九六、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の所得税一二、八二八、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書四通

一、大重栄子(五通)、高橋美恵、塚田京子、富高シチ、三角富佐子、西房枝、佐藤文則および木山誠の検察官に対する各供述調書

一、大重栄子(九通)および木山誠の収税官吏に対する各質問てん末書

一、証人塚田京子の当公判廷における供述

一、収税官吏作成の昭和五三年五月二九日付査察官調査事績書

一、延岡税務署長作成の青色申告の承認の取消し決議書

一、検察事務官作成の電話聴取書(宮崎地方検察庁管内電話用紙のもの)

一、合意書面二通

一、検察事務官作成の昭和五四年三月一二日付報告書

一、押収してある青色申告者書類綴一冊(昭和五三年押第八三号の三一)、日計表集計綴一冊(同号の二七)

一人別日計表五冊(昭和四九年七月分、八月分、一〇月ないし一二月分、同号の三六ないし四〇)、メモ紙片一一六枚(同号の三五)、棚卸集計表綴一冊(同号の二八)および小型ノート一冊(同号の三四)

判示第一の事実につき、

一、収税官吏作成の昭和五三年五月三一日付および同年八月五日付各査察官調査事績書

一、検察事務官作成の昭和五三年九月一六日付(四通、昭和五〇年度分所得計算資料1ないし4のもの)、同年八月二三日付(同5のものおよび同年九月一八日付(同6のもの)各報告書

一、押収してある所得税の確定申告書一通(昭和五〇年分同号の三二)、日計表一冊(同号の一)、一人別日計表一二冊(昭和五〇年一月分ないし一二月分、同号の二ないし一三)および棚卸表一綴(同号の二九)

判示第二の事実につき

一、収税官吏作成の昭和五三年六月一日付査察官調査事績書

一、検察事務官作成の昭和五三年九月一六日付(四通、昭和五一年度分所得計算資料1ないし4のもの)、同年八月二三日付(同5のもの)、同年九月一八日付(同6のもの)および同月一四日付各報告書

一、押収してある所得税の確定申告書一通(昭和五一年分同号の三三)、日計表一冊(同号の一四)、一人別日計表一二冊(昭和五一年一月分ないし一二月分、同号の一五ないし二六)および棚卸表一綴(同号三)

(争点である妊婦検診料等のほ脱額の算定について)

この点について、検察官は被告人の指示に基づきほ脱のメモを作成していた看護婦高橋美恵の「脱税額は、一日当り二万円から三万円位だつたと思います。」という供述に依拠し、一日二万円宛のほ脱があつた旨主張するが、右供述は、ほ脱の実際に関係した者の経験に照した供述として注目すべきものではあるが、それ自体は、おおまかな感覚的供述であつて、これを刑事裁判におけるほ脱額算定の根拠とすることは相当でない。

右の点については、被告人自身ないしはその指示に基づき看護婦らが作成したほ脱額のメモを引き写したメモ紙片一一六枚(昭和五三年押第八三号の三五)、そのメモ紙片の年月日別集計結果を記載した検察事務官作成の昭和五四年三月一二日付報告書によると、右メモ紙片に記された昭和四九年から昭和五一年までの間の問題の妊婦検診料等のほ脱額の一日当り最高額は、二一万九七七二円にも上り、年度毎の一日当りの平均額も昭和四九年度が一万一七九四円、昭和五〇年度が一万四七二二円、昭和五一年度が一七万五四二六円で、昭和四九年から昭和五一年までの三年間の月毎の一日当り平均額は、概ね一万円台であるが、その最低額は昭和四九年七月分の九九四八円であることが認められ、前記の看護婦高橋美恵の検察官に対する供述調書から認められる問題のほ脱の実態、前記の検察事務官作成の昭和五四年三月一二日付報告書から認められる右ほ脱額の分布状況、前掲の各日計表、一人別日計表の内容を併せ考えると、問題の妊婦検診料等のほ脱額は一日当り一万数千円に上る疑いが濃厚である。しかしながら右メモ紙片がほ脱額のすべてを網羅しているものではないこと、年次平均額より実態を反映していると解せられることなどを併せ考えると、右のように断定するには一抹の疑念がないでもなく、結局合理的な疑いを差し挾む余地のない右の数額としては一日当り右の各平均額を最も下まわる月毎の平均額の最低額である九九四八円を下らないものと推計するを相当とする。

そうだとすると、問題の妊婦検診料等のほ脱額は、昭和五〇年度分が右九九四八円に同年度の平常診療日数二九六日を乗じた二九四万四六〇八円、同五一年度が右九九四八円に検察官の主張にかかる問題のほ脱に関係した前記看護婦高橋美恵の在職中における平常診療日数四五日を乗じた四四万七六六〇円ということは計数上明らかである。

(法令の適用)

罰条 判示第一および第二の各所為刑法六〇条、所得税法二三八条一項(いずれも懲役刑と罰金刑を併科)

併合罪の処理 刑法五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定加重)、

罰金刑につき同法四八条一項、二項

労役場留置 罰金刑につき同法一八条

刑の執行猶予 懲役刑につき同法二五条一項

訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文 よつて、主文のとおり判決する。

出席検察官 大坪清明

(裁判官 円井義弘)

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